今から30年前、私は20代前半の鍼灸学校に通う学生でした。
当時の私は、鍼灸業界に対して強い疑問と違和感を抱いていたのを、今でも鮮明に覚えています。
当時は今と違って、鍼灸師や柔道整復師の資格を取れる学校は非常に限られており、いわば狭き門。
にもかかわらず、卒業後に働く多くの場所では、「肩もんで、腰も強めで」といった患者さんの要望に応じて、ただマッサージを提供する日々。
保険を使ってマッサージをする「マッサージ屋さん」としての整骨院があふれており、治療家を目指していた私には大きなギャップでした。
「こんなの、治療じゃない」
「俺はモミ屋になりたくて鍼灸師を目指したんじゃない」
そんな思いを抱きながら、私は将来に不安を感じ、精神的にもかなり参ってしまいました。心療内科を受診した結果、「軽いうつ病」という診断を受けたのも、この頃です。
ひとつの出会いが、希望をくれた
そんなある日、義兄から「友人に学校でも教えていて、鍼灸の勉強会も開いている人がいる。一度会ってみないか?」と声をかけられました。
その方が宇多先生(仮名)です。宇多先生は整骨院でも働いていて、見学に来てみては?と提案されました。
院を訪ねた日、先生は長髪・ヒゲというサーファー風の見た目で、私の中の“治療家像”とはまったく違いました。整骨院に着くと、スタッフ全員ロン毛、院長だけがスキンヘッド。
しかもその院長がジャンケンで負けて院長になったという、和気あいあいとした空気。驚きましたが、どこか心が和みました。
本気で“治したい”と思える場所があった
この院では、マッサージだけでなく、スタッフがしっかりと説明し、学びのある現場でした。見学中も「疲れたら休んで」「お茶いる?」など気遣いがあり、丁寧に鍼灸や治療について教えてくれる環境がありました。
院長とも話す機会があり、「鍼灸だけでやっていきたいけど、周りは“食えない”と言う。整骨院をやるべきなのか悩んでいます」と正直な気持ちを打ち明けました。
すると院長はこう言ったのです。
「鍼はがんにも効果があるって言われてる」
「東洋医学を本気で学べば、人を治す力が身につく」
「これからの時代は、鍼灸が必要とされるよ」
鍼灸師としての人生がここから始まった
この言葉を聞いたとき、「本当にそうなれたらいいな」と心が動かされました。それまで、ただ不安で前が見えなかった私に、初めて「希望」が芽生えた瞬間でした。
それから1年かけてうつ状態も回復し、卒業後は鍼灸整骨院での修行を経て、医療法人の病院に勤務。
そこでは、末期がんの患者さんへの鍼治療に携わるようになりました。
子宮がん、肺がん、乳がん…痛みの軽減を目的とした鍼灸を行い、東洋医学部門の主任にもなりました。
ある日、タクシーに乗って病院名を告げると、運転手が「その病院、鍼の先生がすごいって評判ですよ」と話してくれたのを聞いたとき、本当に感慨深かったのを覚えています。
本気でやれば、夢は叶う
あの日、義兄が声をかけてくれなかったら、宇多先生や坊主頭の院長と出会っていなければ、私は今の自分になれていなかったかもしれません。
「鍼灸でがん患者を救えるかもしれない」
そう本気で信じたことで、私は道を切り開くことができました。
今、鍼灸師を目指している方、業界に疑問を感じている方へ伝えたいです。
迷っても、悩んでも、自分が信じた“治療”を本気で追い求めてください。
鍼灸には、まだまだ可能性があります。私自身、それを実感しています。
氣よし鍼灸院
電話 06-6170-9671